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神戸地方裁判所 平成5年(わ)378号 判決

本店所在地

兵庫県尼崎市東難波町五丁目一七番二三号

株式会社大産建設

(右代表者代表取締役 山下正一)

国籍

韓国(慶尚南道咸安郡咸安面北村洞九二二)

住居

兵庫県西宮市甲子園三番町三番二六号

会社役員

山下正一こと金基徳

一九三七年七月一五日生

本籍

東京都墨田区八広四丁目二九番地

住居

大阪府豊中市服部南町三丁目二番一号 葵マンションC-三

会社員

江藤武次

昭和一七年九月一三日生

右の者らに対する頭書被告事件について、当裁判所は、検察官佐藤洋志・弁護人黒田修一、齊藤洌、長池勇各出席のうえ審理し、次のとおり判決する(求刑、被告人会社につき罰金一億円、被告人金につき懲役二年六月、被告人江藤につき懲役一年六月)。

主文

被告人株式会社大産建設を罰金九〇〇〇万円に、被告人金基徳を懲役一年六月に、被告人江藤武次を懲役一年二月にそれぞれ処する。

被告人江藤武次に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社大産建設は、肩書本店所在地に本店を置き、土木工事業を営む資本金八〇〇〇万円の株式会社であり、同山下正一こと金基徳は、同社の代表取締役として同社の業務全般を統括しているもの、同江藤武次は同社の総務部次長として同社の経理業務を統括していたものであるが、被告人金及び同江藤は、共謀のうえ、同社の業務に関し法人税を免れようと企て、

第一  昭和六三年七月一日から平成元年六月三〇日までの事業年度における所得金額が二億三四四五万九一二三円で、これに対する法人税額が九五八一万六七〇〇円であるにもかかわらず、同社の公表経理上、架空の外注工事費、雑損失及び減価償却費を計上する行為により、所得金額全額を秘匿したうえ、同年八月三一日、兵庫県尼崎市西難波町一丁目八番一号所在の所轄尼崎税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が五七一九万二六八七円で、これに対する法人税額がない旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額九五八一万六七〇〇円を免れ、

第二  平成元年七月一日から同二年六月三〇日までの事業年度における所得金額が五億八六〇五万五五二七円で、これに対する法人税額が二億三二〇四万五六〇〇円であるにもかかわらず、同社の公表経理上、架空の外注工事費、重機修理費、雑損失及び減価償却費を計上する行為により、所得金額のうち五億八四五四万八三二六円を秘匿したうえ、同年八月三一日、前記尼崎税務署において、前記税務署長に対し、所得金額が一五〇万七二〇一円でこれに対する法人税額がない旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額二億三二〇四万五六〇〇万円を免れ

たものである。

(証拠の標目-括弧内数字は検察官請求証拠番号)

判示事実全部について

一  被告人金基徳の検察官に対する供述調書(四六)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(四七)

一  被告人江藤武次の検察官に対する各供述調書(五一~五七)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(五八)

一  東親叙の検察官に対する供述調書(三二)

判示冒頭の事実について

一  被告人金基徳(四〇)、同江藤武次(五〇)及び高鍋萬里子(三五)の検察官に対する各供述調書

一  商業登記簿謄本(三六)

判示第一及び第二の事実について

一  河本光憲(二一)、加藤政暢(二二)、伊藤匡(二三)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書(八~一〇、一二~一六、一九)

一  大阪国税局収税官吏作成の「所轄税務署の所在について」と題する書面(七)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書(一七、二〇)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(二)

一  大蔵事務官作成の各証明書(四、五)

判示第二の事実について

一  安藤潤(二四、二五)、阪口勇(二六)、仲上登美麿(二七)、伊藤寿夫(二八)、中瀬徳幸(二九)、小林義昭(三〇)、目崎元司(三一)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書(一一、一八)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(三)

一  大蔵事務官作成の証明書(六)

なお、弁護人は査察官調査書(一〇)一五頁の「計上可能額」の表題下に、「嫌疑法人の公表経理処理に基づく平成元年六月期における丸磯建設株式会社(以下「丸磯建設」という)に対する外注工事費の計上可能額は、八三六六万〇六二六円となる。」との記載がなされている点を捉えて、右金額から既に公表処理済の丸磯建設に対する外注工事費一一四六万七五六二円(証拠上は一一四七万六五七二円)を差し引いた残額の七二一九万三〇六四円(証拠上は七二一八万四〇五四円)を平成元年六月期及び同二年六月期における「外注工事費」に計上し、各逋脱所得金額から除外すべき旨主張するので、以下検討する。

関係証拠によれば、次の事実が認められる。

〈1〉 昭和六一年三月頃、鹿児島市伊敷中央団地造成工事の整地工事を、被告人会社、河本建設株式会社、丸磯建設大阪支店の三社が、三井不動産等元請共同企業体から共同企業体として請け負ったが、昭和六二年七月頃、被告人会社・丸磯建設の工区と河本建設の工区に分けて施工し、丸磯建設は、その受け持ち工区の施工を被告人会社に任せ、その代わりに名義料を受け取ることにしていたこと。

〈2〉 昭和六二年八月一九日頃、被告人会社から丸磯建設に、第一回目の支払として金三一九万七〇五〇円の支払があったが、同金額が当初の約束より少額であったことから、丸磯建設は被告人会社に異議を申し立てたが、返事がなく、その後は、支払もなかったこと、

〈3〉 平成元年五月頃、工事が完成し、被告人会社から一一四七万六五七二円で最終的に清算するべく申し入れがなされたが、丸磯建設は、上積み一〇〇〇万円を主張して、以後何回も交渉した結果、平成二年七月三日に至って清算総額を一七二四万四三六〇円(第一回清算額込み)とすることで決着を見、被告人会社は同年九月二八日に、清算総額から第一回清算額を差し引いた金一四〇四万円(差額七三一〇円は仕入値引として処理)を丸磯建設に支払ったこと、

〈4〉 平成元年六月期において、被告人会社は、丸磯建設宛てに一一四七万六五七二円を見積経費(外注工事費)として計上して、公表処理済であったこと、

〈5〉 平成二年六月期において、被告人会社は、丸磯建設との最終清算額一七二四万四三六〇円から第一回清算額三一九万七〇五〇円及び前記見積計上額一一四七万六五七二円を差し引いた二五七万〇七三八円を申告せず、また、同金額が確定したのは、平成二年七月三日であるが、当該事業年度終了日の現況により適正に見積もるべき費用として本件起訴に際しては外注工事費として認容処理されていること、

〈6〉 前記調査書該当頁の「外注工事費計上可能額」八三六六万〇六二六円は、被告人会社が平成元年六月期及び同二年六月期に河本建設に対する外注工事費として計上した一億三二二二万六八一六円が架空であることを明らかにする過程で、丸磯建設に対するそれとしても実存することがあり得ないことを明らかにするために、丸磯建設に対する経理処理が、外注工事費・雑収入等の経費・収入の両建て処理を行うことなく、差し引き純額の配当金として処理していることを指摘すると共に、丸磯工区の総出来高一億四三七〇万三〇〇〇円から前々年度(昭和六二年度)三一九万七〇五〇円及び前年度(昭和六三年度)四〇四〇万〇三七四円の被告人会社の公表経理処理上の外注工事費を控除した残額と大きく異なることを示すために算出された数字に過ぎないもので、この「計上可能額」が認容される余地は皆無であること。

以上の事実に照らせば、丸磯建設に関する費用については、適正に処理されており、また、弁護人指摘の「外注工事費計上可能額」を前提にして、その費用を計算処理すべきものでないことは明らかであるので、弁護人の主張は理由がない。

(法令の適用)

判示各所為は、各事業年度ごとに、被告人両名については法人税法一五九条一項、刑法六〇条に、被告人会社については法人税法一五九条一項、一六四条一項にそれぞれ該当するところ、被告人会社については情状により同法一五九条二項を適用し、被告人両名については所定刑中懲役刑を選択することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金九〇〇〇万円に、被告人両名については、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内において被告人金を懲役一年六月に、被告人江藤を懲役一年二月にそれぞれ処し、情状により被告人江藤に対し同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件各犯行は、昭和六〇年九月六日、神戸地方裁判所において法人税法違反により懲役一年、執行猶予三年の判決(昭和六一年七月一二日確定)を受け、更生の機会を与えられていた被告人金が、反省することなく、被告人江藤と共謀して、前件と同様の方法で、法人税を免れたという事案で、その犯行態様は大胆かつ狡猾で、その逋脱額は総計三億二千万円余りにものぼる高額なものであり、しかも逋脱率はいずれも一〇〇パーセントであって、法軽視の態度が著しく、悪質な犯行というべきである。

(弁護人は、本件の重機修理費の各架空計上について、本件各逋脱行為は「期ずらし」で、租税債権の侵害の程度が軽微であるというが、被告人金自身述べるように建設業は利益の変動が激しく、期ずらしによってでも所得を隠匿する業者側の実益があるのであるから、侵害の程度が他の方法によるよりも軽微であるとは必ずしもいえない。また、青色申告の取消による特別減価償却費の否認分につき、被告人らは逋脱の故意を有しないので、量刑上考慮すべき旨主張するが、逋脱行為の結果として後に青色申告の承認を取り消されるであろうことは行為当時において当然認識できることであるのみならず、被告人江藤は経理会計の知識を持っており、被告人金は同種の前件において青色申告を取り消された経験を有しているのであるから、右取消による否認の結果を予測していたものと推認され、この点を量刑上斟酌する余地はない。)。

特に、被告人金は、かつて同種事犯により処罰されたにもかかわらず、却って前件で脱税が発覚し有罪判決を受けた経験を生かして、今回は、本件が発覚しても否認しやすいように、脱税工作を拒否しがたい立場の江藤に対して明示的な指示を与えず、前件の確定記録を見せるなどしたうえ、「節税せえ」などと執拗に暗示するに止めて目的を達する犯行態様は狡猾以外のなにものでもない(弁護人は被告人金の本件への関与は薄いなどと主張するが、被告人金が本件犯行により実質的に利益を享受しうるにもかかわらず、被告人江藤には直接享受すべき利益がないことからしても、本件犯行における被告人金の主犯たる地位は明らかであり、従属的な立場にある被告人江藤を右のような狡猾な態度で実行に至らせたことはむしろ強く非難さるべきものとさえ言いうる)。そのうえ、当初から本件の責任が主に江藤にあるという口吻に終始しており、その態度からは反省の情など見いだしえないこと、被告人金には先の同種前科以外にも、傷害、外国人登録法違反、業務上過失傷害の罰金前科が四犯あることに鑑みると、被告人金(被告人会社)の責任は重大で、新聞報道等で社会的な制裁を受けていること、本件犯行にかかる法人税について重加算税も含めて納付の手続を完了していること、被告人金が被告人会社の実質的経営者であり、その進退が、従業員多数を擁する同社の存亡に直結すること、糖尿病等の持病を有すること、介護を要する妻、年少の子供を抱えていること等酌むべき事情を考慮しても、被告人会社に対しては主文掲記の罰金を、被告人金に対して主文掲記の刑に処するもやむをえない。

他方、江藤については、自己の有する経理の知識を利用して本件犯行を実行した実行犯であり、その責任は被告人金同様重いものがある。しかしながら、ワンマン経営者金の威勢の下、その意向に逆らうことが困難な立場におかれて本件犯行に加担するに至ったこと、被告人会社を支配しその収益が実質的に帰属する金と異なり、本件による利益そのものに与かる余地のない従属的地位にあったこと、本件犯行に関する尼崎税務署の指導・対応が必ずしも適切であったとは言い切れないこと、業務上過失傷害の罰金前科が二犯ある以外に格別の前科もないこと、捜査段階において犯行を素直に認めていることなど、有利なあるいは同情すべき諸事情を斟酌すれば、被告人江藤に対し、主文掲記の刑を科し、その刑の執行を猶予するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 阿部功 裁判官 小林秀和 裁判官 後藤慶一郎)

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